*登場人物*
・萬里→祈祷師ですが、現実の生活を優先することにしてバイト始めました。でも最近なんだか心身共に自由が利かない。
・あやぱん→現在萬屋事務局メンバー。萬里が普通の人から目覚めて今に至るまでずっと見守ってきた友人。萬里歴史の目撃者とも言える。
・理妃ちゃん→萬里のお仲間。家庭ありで現実の仕事を隠れ蓑にして、ひっそり活動中。能力は超一流。霊担当は主に『母子』
・ルーちゃん→萬里が働き始めた飲食店の社員さん。紅一点
色々と納得いかない、自覚もない。鏡に映る自分の姿をまじまじと見てみる。
「ん〜、ちょっとやつれた感じはあるけど、夏場は食欲も落ちるし、お盆ラッシュもあるしいつもこんな感じじゃなかったかな?」
そんな一目見ておかしいと言われるほどの変化があるようには見えない。
体重計に乗ってみる。
「最後に計ったのっていつだっけ?!1ヶ月ちょっと前くらいかな?わぁ、たしかに6kgも落ちてる・・・。」
萬里は本当に病気?
バイト先でルーちゃんに相談してみた。
ルーちゃん「なんとなくですけど、いつもの萬里さんじゃない感じはしてますよ。まぁ、何があったとしても私がフォローはするし、安心するためにも病院行ってみても良いんじゃないですか?」
萬里「そやね、仕事できなくなることが一番嫌やし、いつもやれるはずのことができない自分にイライラするし、みんなに迷惑かけたくないもんな。」
理妃ちゃんの迫り方も今まで見たことない勢いやったし、やっぱ病院行って白黒つけてきた方がいいのかな。
でも、以前行った心療内科では先生とケンカ越しでやりあったから良い印象が無い。どうせ行くならしっかり話を聞いてくれる信頼できる先生のところがいい。
と言っても、これまでたくさんの不調に悩まされてきたものの、もう自分が行くことになるとは思ってなかったから、心療内科に関してはほとんど情報収集をしてなかった。
さぁ、たくさんある病院の中から信頼できる病院をどうやって探す?
以前H氏と知り合うきっかけになった治療院も、フリーペーパーの特集の中から見つけ出したから、あの時みたいに感覚的に何か感じるものがあるところを探してみようと思う。
とりえずネットで近隣の心療内科を全部出してみて、その病院から発する『氣』を感じてみた。
先生の写真があれば一番良いんだけど、全部が全部載ってるわけではないから外観からでも何か手に取れる情報があれば辿ってみるしかないかな。
こんな頭の状態で正確にその判断ができるとも限らないけど、前みたいに納得のいかない治療と相性の悪い先生とのやりとりを長期間続けるとなると、その方がストレスやし。
外観古そうだけど、落ち着いた感覚のする、こじんまりとした病院に目が留まった。
先生がどんな人なのか、写真はないから行ってみないことにはわからない、でも嫌な感じはしないし抵抗感が少ないからここなら良いかもしれない。
心療内科へ行く自分。その姿自体が有り得ない、想像もしてなかった。
心療内科へ行くこと自体が、こんなにも自分をダメな人間だと責めたくなるほど、苦痛だと思ってもなかった。
診察室へ呼ばれる前に、受付後すぐ『うつ診断テスト』をさせられる。数十問の質問に「はい・いいえ」で答えていく形式だったと思う。
ここまで来ても、絶対に『鬱』だと診断を受けたくない気持ちが先に出る、そう思われないであろう答えを無意識に選択していく。回答を提出し、その結果が出たようだ、診察室へ呼ばれる。
先生「今萬里さんを一番嫌な気持ちにさせてることって、何かありますか?ストレスに感じるような自覚のあることが日常的にありますか?」
萬里「まぁ、ありますね・・・。」
そんな質問よりも、萬里はとにかく結果を聞きたい。
先生「はい、結果から言うとですね、しっかりと『鬱』だと出てるんですよね。」
萬里「え・・・。その診断に曖昧なところとかはないんですか?」
先生「この診断って、人の心理をついて裏をかくところまで計算されているから、本心の部分が出るんです。萬里さんは鬱だと思われたくないと思いながら答えを書いたでしょう?」
萬里「はい・・・。」
先生「しっかり分析されてる質問内容なんです。診断も「鬱」「うつ寄りの状態」「健常」「うつではない」と何段階かあるんですけど。萬里さんの場合「鬱」である。としっかり出てるんです。ショックな気持ちは分かりますよ、でも経験上、データ上間違いないと、医者としては言い切れる診断結果なんです。」
萬里「はぁ。でも、萬里は人の相談を受けたりする仕事もしてるんです。それだけでは収入にならないから今バイトにも行ってます。でも、何が嫌って、今まで簡単に当たり前にできていたことができなくなったり、ありえない失敗したり、とにかく頭が回らないし体がついてこないこと自体がすごくストレスに感じるんです。」
先生「それはうつ状態になると脳の機能が落ちるから、起こる症状でもあるんです。決して萬里さんが悪いわけではないんです。そうなった原因のストレスを取り除くことも必要ですが、大抵は簡単なことではなかったりするから、まずは少しでも日常生活を快適に送れるように、薬での治療を始めましょう。」
萬里「でも、どうしても自分が鬱だとは思えません。私がなるはずない。私そんな思い詰める性格でもないですし。やっぱり薬を飲まないとダメなことなんでしょうか?
どうしても自分が鬱だなんて信じられないんです。」
先生「萬里さん、鬱の治療ってですね。まずは鬱を病気として受け入れることからがスタートなんですよ。皆さん同じように自分は違うって思われてます。
鬱になられた方って皆さん、誰かのために自分を犠牲にしたり、なんでも完璧にやらないといけない!って自分に厳しかったり、それができるし、とても真面目なんです。
だから、できない自分を許せないから鬱を受け入れ難いし、余計に苦しくなるんですよね。
だからまずはこの病気を受け入れるところから大変なんです。
色々難しく考えずに、自分は鬱なんだという自覚を持つことから始めましょう。」
萬里「ここまで来て診断が出てしまっても、やっぱりちょっと、鬱っていう診断が出ることすら予測できてなかったので、この結果自体まだ疑ってます。診断が出てしまったことが、すごくショックなんです。何がイヤって、病気を理由にあれもこれもできない自分が許せないし、言い訳みたいになるのが嫌なんです。」
先生「わかりますよ。鬱になる方って元々の性格が、そういう自分に厳しい方が多いですから。でも、言い訳でもなんでもない事実ですから、認めたところで何かに負ける訳ではないですよ。受け入れると少し気持ちは楽になるかもしれません、誰かにわざわざ言う必要もないですからね。」
萬里「治療はするべきなのかもしれないとは思ってます。でも、気持ち的に受け入れるにはちょっと時間かかると思います。」
先生「時間がかかることですから、大丈夫ですよ。周囲の理解も必要になるし、治療に必要なのは薬もですが、生活習慣を改善していくことも含まれます。だから、まずは日常生活も頑張りすぎず、無理をせずに、周囲の手を借りる、そして睡眠をしっかり取る!眠れなければ、薬の力を借りる。それもありってくらいの感覚で。」
萬里「わかりました。以前行った心療内科で嫌な思いしてるから、実はすごく警戒してるんです。」
先生「強制はしませんよ。ご本人の意思やペースがありますからね。ウチは必ず予約しないといけない訳でもないですから、その分お待たせしたりもするんですけどね、来れる時、調子が悪い時、薬がなくなった時、そうじゃなくても何かあれば、診療時間内ならいつ来ていただいても構いませんよ。」
萬里「わかりました、よかったです。受け入れられたら、また来ます。」
病院選びは間違ってなかったと思う。全く頭は働いてないけど、直感は残っていたんやね。先生は穏やかで、しっかりと話を聞いてくれた、萬里が今どんな状況でなにを抱えているのか。
ま、もっと重症者扱いされる可能性も考えて、霊が見えるとか声が聞こえるということは話してないけどね。
自分のことよりも、人のことばかり考えて生活してるのが当たり前で、それが特に苦になる訳でもなかった。
でも、今とてもストレスに感じているのは、ダーリンのために何かしてあげたいとは思えないこと。何かをしてあげたいと思えない人間と一緒に暮らしていること。
子供を育てていくのに、ネックになっているとさえ感じる。今の萬里と子供達にとっての重荷。
昔も、同じようなことがあった。だって結婚も子育ても初めてではないからね。
昔と違う点は、萬里の身体も心も勢いでどうにかなるほど元気が残っていない。
元気さえあれば、「どうにかなるやろ。」って、いつもなにげに乗り越えて過ごすんだけど、それすらもありえないほどの絶望感。
こんな自分の思考も元気のなさも今まで生きた中で、一度もなかった。
たとえ、ひどいDV受けようが、毎日のように嬲られようが、車上生活をしてようが、友達からお金盗まれようが、騙し取られようが、見知らぬ人から包丁突きつけられようと、一度も「もう、どうにもならない。」と絶望したことはなかった。
萬里は、いくら霊的な力があったとしても、もう誰かのために相談に乗ったり、力になることすらできない、そんな立場ではない、『鬱』なんだから・・・。
【第五の人生】につづく。
♪いつも読んでいただきありがとうございます♬
フムフム、そんなこともあるんだ〜!まぁ、なんやわからんけど頑張ってくれたまえ!!